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いつのまにか曲がもう終わっていた。
彼は風に残る旋律の余韻を感じるように目を閉じている。暫くの間、風の音だけが俺と彼の間を流れていった。
碧い風が俺と彼をなぜる。
ふ、と彼はゆっくりと目を開くと、俺の視線に気付いたようだった。
(っ…なんて、きれいな)
天使、だと、思った。
陽光が優しく降り注いでミルクティー色の髪と繊細な睫毛がきらきらと光を帯びる。
白い肌は陶器のようにつややかで、頬には淡く色が差していた。長い睫毛から、アメジストのような瞳が覗く。
「…そんなに見つめられたら、照れるよ」
少しだけ、困ったように微笑む唇は、淡く色づき、きれいな三日月に姿を変えて見せた。
「…あぁ…すまない、
えっと…バッハの無伴奏チェロ組曲 第1番?」
音楽だけでなく、天使のような彼の容姿に、圧倒されてしまっていた。
「そうだよ」
笑顔で微笑む彼に、こちらの表情も自然とゆるんだ。
「今日はついてるよ、こんな素晴らしいフルートを聴けるなんて…。
こんな無伴奏チェロは今まで聴いたことなかった」
「嬉しい…ありがとう」
彼…いや、天使くんはフルートを大切そうにケースに収める。
その指の爪先さえも、よく整えられているのだから、本当に彼は天使なのかもしれない…とさえ、思ってしまう。
「聴いてくれている人がいたなんて嬉しいな」
天使くんはそう笑顔で言うと近づいてきた。
歩く姿さえ、美しいなんて。
「君が聴いてたのは気づいてたよ…本当に音楽が好きなんだなぁって伝わってきて…まるで世界と君と溶け合うようだった」
そんなことを言われながら、ごく自然に手を取られて心臓が跳ねる。
「っ…、うん、音楽はすきだよ」
「君も何か音楽を?」
期待したように天使くんのアメジストの瞳が輝く。
「アルトサックス、…吹奏楽部なんだ」
「そうなんだ…これから部活?」
「そんなところかな」
ベンチに導かれるように手を引かれて、2人で腰をかける。
近くで見ると本当に美少年でドキドキする。しかもとても良い香りがする。
ダブルなんだろうか。ヨーロッパの洗練された美しさに、日本人のイケメン要素を掛け合わせた…と言った印象。
ボキャブラリー不足が目に見えるが、天使くんが綺麗すぎて言葉で説明しきれないのだ。
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