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「そうは言ってもアルバイトだしまだまだ未熟だから…毎日ではないんだけどな」
「それでもライブに出てるなんてすごいよ!お店どこなの?聴きに行きたい!」
天使くんがキラキラした目で尋ねてくる。興味を持ってもらえたことが嬉しい。
「知らないかもしれないけど黒猫街ってところなんだ」
「あ…そこ知ってる……商店街のアンティークな感じのお店で…確か猫がモチーフの…」
「そうそう、よく知ってたな」
「実はこの辺を歩いていて気になって…調べてみたお店だったんだ」
こんなフルートが上手で、天使な美少年に「気になっていた」なんて言われたら、スタッフとしては嬉しい限りだ。
「ぜひ遊びに来てほしいな、俺は水曜と金曜のどっちかに吹いてるから…夜の7時半くらいからライブなんだよ、気に入ってくれると良いな」
天使くんの瞳がもっとキラッと輝いて、突然ガバッと元気よく顔を上げた。
「うん、行く!絶対いくよ!」
「うん、待ってるね」
その目の輝きといったら、すきなおやつをもらった猫の様で思わず顔がほころぶ。
「俺、小笠原 迅!迅って呼んで…!」
「俺は御子柴 悠灯、悠灯でいいよ。迅も高校で吹奏楽やるなら結構会うかもな」
天使くんは迅という名前らしい。
迅はとても嬉しそうに笑った、まさに天使の微笑みだ。
「必ず会うよ」
「え?」
迅はそのまま少し、意味ありげに目を細めると再び俺の手に触れた。
整えられた爪先が肌をたどってくる。こちらをアメジストの瞳で真っ直ぐに見つめて。
そんなことされたらドキドキしてしまう。
「…運命感じるから」
「運命?」
「うん、この風が吹いてたから…フルートの音をこの風にのせてみたくなった、この風が音をのせてくれたから俺たちは出会えた」
迅の指がするり…と絡みつく。細くて白い綺麗な指だった。
「あとは…悠灯が俺の音を気に入ってくれたから…かな、音楽で引き寄せられた運命の人なんだよ…きっと」
「そう…?」
よくそんな台詞をそんな顔で言えるな。恥ずかしくてさすがに赤面してしまう。
「まあ…俺つられるように来たし…迅の言う通りなのかもしれないな」
この風がなければ気が付かなかったかもしれない。
「だからね、すごく嬉しいんだ」
「俺も迅に会えてよかったよ、こんなにいい音聴けてしあわせだよ」
個人的には、今まで聴いてきたフルートの中で、1番「好み」の音だった。
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