学園への介入者

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「あ、あんなん、どうやって攻略しろ言うんや…。獣人族ってのはほとほとイカレとる……」 「先手を取っても崩せんとは…。流石は英雄と言ったところだな」 「何悠長に感心しとんねん」 壁際まで飛ばされたディオとウォルカが痛みを訴える体を起こしてナギサを睨む。 そんなディオたちを、腰に手を当て、笑みを浮かべた顔で眺めているナギサ。 「ぐっ!?」 そのうち、蓮もディオたちと同じように飛ばされてきた。 ドシャッとろくに受け身も取れずに転がって来た蓮を、ディオは苦笑交じりに見やる。 「何分粘れた?」 「一分もねぇ…!!あの野郎、いきなり速度を上げやがった…!!」 蓮は恐らく痛打されたのであろう肩を押さえながら起き上がるが、それを聞いていたディオは本格的に表情を険しくさせる。 そもそも光速同士の戦いで速さがどうのこうの言われても、ピンとこないのは言うべきか否か…。 ともあれ― 「打つ手なし、か?」 「自分らの頭で考えても、碌な作戦も思い浮かばんしな…」 恨めがましそうにエドへ視線を向けるが、それに気づいたエドは視線を逸らす。 あからさまな態度に舌打ちが出そうになるが、今までエドに甘えてきたこともまた事実であり、ぐっと堪えるしかない。 やがてナギサの隣に立つソルヴィ。 そのソルヴィの額に汗が吹き出しつつあるのを見て、ナギサは含み笑いを零す。 「随分と粘られたみたいじゃないかい。それとも腕が鈍ったのかねぇ?」 「ならお主があれの相手をするか?」 額の汗をぬぐいつつ、軽口を叩くナギサに苦笑しながら言葉を返すが、正直ナギサほどの余裕はない。 その様子に気づいたナギサが眉を寄せてソルヴィを睨むように見つめた。 「昨日、興が乗って手の内を見せすぎた様じゃ。あ奴、儂の速さに目が慣れたのか、思った以上に食らいついてきた」 「それは何とも…。坊主の方を褒めるべきか、自制が出来ないアンタを叱るべきか…。ともあれ、あれとまともに打ち合ったら、周りに目を向ける余裕がなくなりそうだ」 内心、ナギサはソルヴィと一分も打ち合った蓮に舌を巻いていた。 いくら人間よりも身体のスペックが高いとはいえ、光速で向かってくる相手に一体どれだけ持ちこたえられるか…。 だがまぁ、今回の訓練は何も個人の強さを推し量るものじゃない。 「んじゃあ、そろそろ先達の教えを授けようかねぇ」 「いつもので良いな?」 「あぁ。今のアイツらには、分かりやすいのがいいだろうしね」 ソルヴィはレイピアを騎士の構えのように胸の前で掲げる。 ナギサは何やらブツブツと呟くと、銃に魔力を込めて銃口を蓮たちへ向けた。 それを見て慌てて回避行動に移ろうとしたディオたちだったが、行動に起こすのが遅すぎた。 「そらよ!!」 放たれたのは水と炎の弾丸。 ナギサが放った弾丸は曲線を描くようにディオたちに向かうが、その軌道は直撃コースではなく、ディオたちの上で交差し霧散すると、霧となってディオたちを覆い隠す。 「な、なんや?あれだけ意味深なことを言っておいて結局目隠しやんか」 「…ッ!?ウォルカ!!炎で霧を霧散させてくれ!!」 「わ、分かった!!」 何かに気づいた蓮が慌ててウォルカに指示を出し、ウォルカの大剣が紫炎を纏うと同時―― 「遅いわ!!」 ソルヴィの声と共に、突如自分たちを囲い込むように竜巻が発生した。 とは言っても、所詮は風だ。目くらましをしたのなら、他にも攻撃手段はありそうなものを――とディオが思ったのも束の間、衣服や肌が凍り始めた。 「ふ、複合魔術かいな!?」 「ウォルカ!!多少火傷してもいい、炎を――!!」 「やっている!!だが、あちらの練度が高いのか、融かしきれんのだ!!」 属性の異なる魔力、魔法を紡ぎ合わせて発動する複合魔術。 属性による縛りの存在や、準備に時間を要すると言った欠点もあるものの、発動出来れば戦局を左右するほどの威力を出すことが出来る。 勿論習得に時間はかかるし、そもそも扱える属性によっては習得できない事もある。 ソルヴィたちが行ったのは、ナギサが放った霧に対し、ソルヴィが風の魔力を同調させた氷の複合魔術。 蓮自身、水と風の初歩的な氷の複合魔術を扱かえるようになっていたため寸でで気づいたのだが、対処が遅れてしまった。 「くそ!!風よ!!」 ウォルカの声に歯がみして、ならば同調しているソルヴィの風魔法を阻害しようとするのだが―― 「ちぃっ!?呑まれる……!!」 風魔法を発動してソルヴィの魔法を乱そうとするのだが、発動した先から逆にソルヴィの魔法に呑まれてしまう。 ウォルカの言う通り、術の練度、魔力の質、あらゆる面で劣っている事を実感させられるが、だからと言ってここに留まり続けるほど下策もない。 ならば術の範囲から逃れようと迅雷を発動するも、今度は腹部に強烈な痛みが走った。 直撃したのは拳ほどの氷の塊。 それらが四方八方から、次々と襲い来る。 「ぼへっ!?」 隣のディオから間抜けな声が上がるが、その威力はそんな生易しい物じゃない。 恐らくだが、外からナギサが放った水の銃弾がソルヴィの風と同調し、こうして礫となって襲い掛かってくるのだろうが、これだけの数が多方向から来ては対処も追いつかない。 頼みの綱と言えばウォルカの炎なのだが、先ほどから状況が改善される気配はなかった。 それどころか、ウォルカもこの氷の礫の嵐に晒されており、最早防御もままならない様子。 「クリムゾン!!」 ならば最早力業しかない。 蓮は剣に赤電を纏わせ紅の太刀を発現させる。 放電を繰り返し、纏う魔力の密度に剣が悲鳴を上げているが、構うことなくそのまま地面に振り下ろした。 「カラドボルグ!!」 雷鳴と爆発で、ディオとウォルカにも多少なりともダメージを与えるだろうが、この際仕方ない。 ほぼ自爆同然に魔力を込めたおかげか、魔力の同調が乱れ、吹雪が止んでいく。 パキン!!という甲高い音共に、属性付与に耐え切れなかった剣が粉々に砕け散った。 「はぁ…はぁ…!!」 額を切ったらしく、頬を血がしたたり落ちていく感覚を覚えながら、蓮は荒い呼吸を繰り返し、白い吐息が空中に溶けていく。 視線の先では、銃口をこちらに向けて口をポカンと開けているナギサと、呆れたように額に手を当てて首を横に振っているソルヴィがいた。 「い、いやいや、そりゃ同調を乱そうと画策するのは道理さね。けどまさか、こんな脳筋みたいな方法で…」 「なぜお主はそうなのじゃ…。普段知恵を巡らせるくせに、こう言った時ほど考えなしにこのような事を…まったく…」 「アンタ、あの坊主に一体どんな教育したんだい?なまじ単騎でもそれなりに戦えるからって、複合魔術をごり押しで相殺するとか、頭おかしいんじゃないかい?」 「わ、儂はこんな事教えとらんわ!!」 「いやはや、まったく…。これじゃ連携もくそもありゃしない。多少手心を加えたとは言え、一人で状況を打開してたら、稽古の意味も無いだろうに…」 こちらを無視して何やら話し込んでいるが、正直それに付き合っていられる程、蓮たちには余裕が無かった。 「叩きこめ、ウォルカ!!」 「おぉぉおぉお!!」 蓮の発破に応えるように、大剣に炎を纏って上段に構えると、そのまま勢いよく振り下ろした。 剣の軌道を象った斬撃が飛び、それに気づいたナギサがすぐさま水の防壁を展開。 しかし、先ほどと違い、ナギサが展開した防壁は文字通り、水蒸気すら発する間もなくウォルカの攻撃を呑み込んだ。
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