学園への介入者

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「ソルヴィ、合わせな!!」 「分かっておる!!」 ナギサは水の防壁を無数の槍状に変化させると、何やらソルヴィに合図を送る。 次いでソルヴィがレイピアを振るうと、ナギサが展開していた水の槍が瞬時に凍り、風を伴い発射された。 「今度こそ融かし切ってみせ――て、何をする蓮!?」 ウォルカが防御のために紫炎の防壁を構築しようとするが、本人には悪いが防ぎきれる保証はない。 土属性で物理的に壁を生み出すならまだしも、氷を一瞬で融かすにはきっと熱量が足りない。 蓮は迅雷を発動して、氷の礫の打ちどころが悪く未だに悶絶しているディオと、大剣を地面に突き刺そうとしているウォルカを強引に脇に抱えて離脱した。 数秒もしないで氷の槍が地面に突き刺さるのを目端に観察し、欠けることなく見事に地面に突き刺さっている有様を見て、内心冷や汗を拭う。 直撃していたら――等と、分かり切った想像をする暇もなく、自身以外の雷鳴が耳に入った瞬間、蓮は二人を投げ飛ばしてすぐさま雷刀を右手に作り出した。 レイピアに紫電を纏わせたソルヴィの突きにタイミングを合わせて雷刀を横薙ぎに振るうも、赤電と紫電が交差した瞬間、弾かれるようにして凄まじい勢いで後方に飛ばされた。 「ガッ!?」 ドガッ!!と壁に背中から激突し、あまりの衝撃に一瞬視界が暗転する。 呼吸すらままならない中、留まるのは危険だと本能が警鐘を鳴らしているが―― バチィイイッ!! 「ッ!?」 しかし、次の行動を起こすことは出来なかった。 顔のすぐ横に雷の矢が刺さった為だ。 ぼやけた視界が元に戻ると、レイピアの切っ先だけでなく、目測十本ほどの雷の矢が展開され自身に向いている。 言わずもがな、詰みである。 ふと視線を横に向けると、持ち直したディオとウォルカがナギサと術の応酬を繰り広げていた。 数の暴力という言葉が似あう程の弾幕を張るナギサに対して、何とかウォルカが接近できるだけの道をディオが開こうとしているが、その悉くをナギサの放った術が阻んでいる。 あの様子では、数分と持たずに膝をついてしまうだろう。 ソルヴィも横目にそれを確認し、レイピアを下ろして雷の矢を消し去った。 そのまま腰に手を当てて、半目で蓮を睨む。 「少しは頭を使わんか、阿呆め。お主一人が突出しておったら、このように分断されて各個撃破されるのがオチじゃ。個ではなく群の戦い方を少しは学ばんか」 「お前自身、前に言っただろうが。雷の場合、速さ故に他者と合わせづらいから遊撃に回るのがいいって」 「ほぉ?それは憶えておった様じゃな。では続く言葉は忘れたか?」 「……それでも、長所を潰すことなく連携してこそ、奇襲なりなんなり、属性の強みを活かせられる…」 ソルヴィの問いに、蓮は気まずげに視線をそらして答えた。 その答えにソルヴィは頷き返す。 「そうじゃ。確かにお主の速さに初見で着いて行ける者はそうはおらんじゃろう。じゃが儂のように同じ属性を持つものならば、このようにしてお主の足止めであれ撃破であれ、如何様にも出来る。となれば、その速さを活かすため、周りと協力しろと前にも言ったじゃろ?」 「とは言うが、具体的にはどうすれば…」 ソルヴィの言わんとしている事は分かる。 しかし、その助言を受けて考えてみたが、そもそも今までに部隊での戦いの経験というものが、数えるほども無いのだ。 だからこそ、もっと具体的な助言をと視線で訴えるのだが、ソルヴィはふっと笑うと肩を竦めて首を横に振る。 「お主が求める答えには程遠いじゃろうが、先ほどのナギサとの連携を参考にしてみる事じゃな」 「さっきのって…。そりゃあ確かに他の人間が持つ属性と掛け合わせて複合魔術が使えるようになれば、戦術の幅も広がるとは思うが…。魔法が飛び交う戦場でそんな器用なことが出来るのか?」 「出来るとも。現に儂とナギサの連携は英雄たち相手でも十分に通用する。風と水を掛け合わせ氷へと転じさせる複合魔術は、他の複合魔術と違って会得し易いといった利点もあるしの」 「……」 理屈は理解できるが、今の自分たちにはまだまだ先の話じゃないだろうか。 連携という点で見れば、もっと個々の動きや役割を明確にするところから始めるべきなのでは?と、ソルヴィの言葉を受けて考えるが、やがて短く息を吐いて思考を切り替える。 というのも、ナギサの弾幕が止み、一際大きなディオの絶叫が聞こえ視線を向けると、ディオとウォルカが地面に突っ伏していたためだ。 「ほら、行くぞ」 「…あぁ」 一足先に戻るソルヴィの背を視線で追い、手も足も出なかったことを思い返して深い溜息を吐いた。 「もう大丈夫?」 「あぁ。ありがとうロッティ」 治癒魔法をロッティにかけて貰い、調子を確かめるように腕を回す。 ディオとウォルカは既に治癒して貰っており、今はエドとミズキを交えて先ほどの動きの確認をしていた。 今回の訓練は、いわば"実力で劣る相手にどう粘るか"だろう。 ディオと蓮にしてみれば、完全な上位互換であるナギサとソルヴィ。 そしてウォルカは、属性的にも不利な相手への対処法。 確かに必要な稽古だとは思うが、ソルヴィたちの意図した連携に重きを置いた稽古なら、もう少し手心を加えて貰っても良いのではないだろうか、とは、甘えた考えだろうか…。 何度目か分からない溜息を吐きつつ、蓮は女子組の稽古の様子を見やる。 やはり男女では戦い方に違いが出るらしく、男子組よりも連携が取れているように感じられた。 というのも、互いが互いを上手くカバーしているのである。 どこがどう違うかと問われれば答えに困るが、少なくとも自分たちの様な場当たり的な連携とは練度が違うと感じたのだ。 「どしたの?」 ディオたちに混ざらず女子たちの稽古を眺めている蓮にロッティが声をかける。 「どうすれば相方の動きを見ずに把握できるのかと思ってな…」 こういう時、決まって呼吸を合わせるといった言葉を聞く。 だが、そもそもとしてその呼吸の合わせ方なるものが分からないから、こうして困っているわけである。 きっと、互いの動きや攻め方を把握できるようになるまで、ひたすら鍛錬する必要があるのだろうが、果たしてそれだけで良いのかどうか…。 考えれば考えるだけ思考の袋小路に迷い込んでいく気がする。 「難しく考えすぎじゃない?」 「とは言うが…」 先ほどソルヴィに、もっと頭を使えと言われたばかりだ。 「おいコラ白髪。何一人だけボーっとしとんねん。お前さんかて反省点は一杯あるやろが」 「五月蠅いぞ狐」 ディオからの叱責に視線を女子たちの稽古から外した蓮は、重たい足取りで輪に加わる。 まずは複合魔術を他人と合わせられるかどうかからエドに聞くべきだろうかと、今後の鍛錬のプランを練り上げる。 どの道、戦闘にこの身を置く機会も、残りそう多くないだろう。 全てはあの『自分』と決着をつけるために。 その為に付け焼刃だろうが何だろうが、今のうちに出来る事をするだけだ――…
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