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この世では、常識では考えられないようなことが起こる。
ただ、人は誰一人としてその身に禍が降りかかるまで、その事を信じようとしない。
ごく普通の会社員、田中恵子(たなかけいこ)もそのうちの一人であった。
その日の帰り道、恵子の周りはいつもと変わらぬ街並みであった。
彼女は今、自宅近くの桜並木を歩いている。
桜の花びらも散り始める時期だった。
街灯に照らされ、綺麗な夜桜だなと思いながら家路へと歩みを進めている。
今の時間は午前二時をまわっていた。
本人は定時で帰るつもりであったのだが、帰る間際に上司から仕事を押し付けられた為にこの時間になってしまったのだ。
(あいつ、絶対あたしの事嫌いだわ)
恵子は心中で上司を罵る。
それ程までに、恵子への嫌がらせが酷かったのだ。
仕事中は見せしめのように怒鳴られ、必ず仕事は他人の倍以上はまわってきていた。
恵子自身、それ程仕事が出来る方でもなかった。
それ故に、よく上司からのストレス解消の標的にされる事も少なくなかった。
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