―距離―

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     * * *    -Gravity- 「〝縛るは地の嫉妬〟」  実は昔、つっても最近ではあるんだが。不良漫画にはまったことがある。伝説の不良や番長を目指す転校生、そんな奴らがヒエラルキーの完成した不良学校をのし上がっていくというのが相場であり、大筋が同じにも関わらず数を読めるものだった。   -GazellRush- 「〝噛み切れ濁流〟」  目新しい要素があるから、ではない。キャラの数だけ人情物語に富み、それに対する主人公達の出す答えがどれも痛快で、格好良さを感じるからだ。   -RedCiecle- 「〝煌の火法陣〟」  目新しい要素などむしろ不要。いらねえんだ。例えば教室に行くまでに襲い掛かってくる奴らは、同じ顔した説明口調な野郎共で一向に構わねえ。ドライヤーとワックスでキメた金髪貴族にすげかえても、なんの面白みもない。  ましてや、拳ではなく魔法に代えるなど炎上待ったなしだ。 「一人くらい殴りかかって来いよなぁ……こそこそ物陰から魔法使ってんじゃねえぞ」  そうはいっても俺も既に、不良漫画にあるまじきキャラではあるんだろうがな。RPGなんかじゃ勇者や戦士こそ子供の憧れであって、魔法使いや僧侶なんかは心の捻くれた奴が選ぶと思っていたのに。  今や俺もその魔法使いの一人である。面を合わすことなく攻撃が可能、女を賭けることなく喧嘩が可能。正々堂々とはまるで一線を画す存在だ。  魔法を呟きイメージすればそれでおしまい。なんとも張り合いの無い学園生活だ。 「……なんか用か」  ようやく教室のある三階に辿り着き、使った魔法を反芻する暇も無い位置に、小さな影があった。 「トビ=カタナチア。あなたがやっていることは、魔法学園の風紀を乱しています。持った力を自由に振り回すなんて、ダメなのに!」 「ダメ、ねえ……。だがなユーラ=クロイツ。俺はリオネに既に許可は取ってあるぜ? 正当防衛なら構わねえってよ」 「過剰防衛って知ってますか?」 「知らねえなあ。つーか止めてえならかかってきな。そうすりゃ俺も正当に防衛が出来んだからよ。過剰かどうかはそのあとだ」 「……後悔しないこと、です」 「来やがれ」  何の四天王でもないのだろうが。コイツは確かに強敵で。  俺の学園生活を邪魔する奴だ。  ――入学して数日。魔法学園一年目は、不良漫画の世界に陥っていた。
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