―嬉々―

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「お、オッサン! 指燃えてんぞ!」 「えへぇ!?」 「バカ、何驚いてんだ。自分で使った〝魔法〟だろうが」 「あ、ああそうだった……。まったく、脅かさないでくれよ。俺ぁ魔法学園にゃ行ってない分、魔法にゃ不慣れなんだから……」  カッカッカと笑いながらからかう男と、胸を撫で下ろしたように言う男。  ……いや。待てって。  おかしいだろ……その会話。 「魔、法……?」 「お。兄ちゃんも魔法にゃ明るくねえのかい。仲間だな仲間」  慌てていた方のオッサンが機嫌良く俺の肩を叩く。叩かれた俺は、頭の中が支離滅裂になっているにも関わらず、不良共にやられた怪我に顔をしかめる。 「に、兄ちゃん!? 大丈夫かい!?」 「怪我してんのか……? よし、とりあえず村まで運ぼう。乗れや兄ちゃん」 「え……あ、ああ。……悪いな」 「気にすんなって。おい、荷物頼むぜ」 「ガッテンだ」  景気良い、そして人の良いオッサン達は俺を何処かへ連れて行ってくれるらしい。多分、ランカ村とやらだろうが。  ──落ち着け。  俺は〝迷っていた〟。  錯乱したり、呆けることなく。ただのレイスよりは冷静だろうという自信はある。  ──服装の……異文化。  お袋が言っていた。  あの世界はどんな所だろうか、と。  ──体に宿る、力のような何か。  十二の時に聞かされた。  自分の心臓に存在する、魔魂という名の忌みの対象。  ──そして、〝魔法〟。  疑う事すら許されず、一番初めに見せつけられた。絵空事のような存在の癖に、お袋を悩ませ続けた存在が有する力。  あられもなく。  恐怖した。  突然に。  未来が分かるなどと謳っていたが、渚に降り掛かるとしか思っていなかったそれが。  自分に起こった。  状況理解は、早かったと思う。理解というより、可能性の提示か。〝もしかしたら〟という、危機への先回り。  ……バレては、いけない。  もし此処が、〝異世界〟ならば。  レイスは恐らく、迫害を受ける。 (……!)  そうして気付く。  違う。そうじゃない、と。  俺は、お袋は、渚は。〝レイスになりそこなったから〟苦しんだんじゃない。  〝メイジだから〟、苦しんだ。  そう。俺は──メイジ。  男の背中で、俺は笑った。
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