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「よっしゃ、着いたぞ兄ちゃん」
「って、うわッ。兄ちゃん血塗れじゃねーか! 魔物にでも襲われたのか!?」
マモノ、か。
「……いや、分かんね。気絶する前の記憶が……ボヤけてる」
「あ、ああ……良く聞く話だ。恐怖的な出来事の前後は記憶が飛ぶとかなんとか……」
「無理に思い出さなくて良いからな。ちょっと待ってろ、医者呼んでくるから」
走って行くオッサンの片割れと、俺を井戸端に座らせるオッサン。
──田舎、だったがよ。井戸を使う程じゃあ……なかった筈だぜ?
苦笑しか漏れない。到着したのは、ランカ村というオッサン達の暮らす場所。
小さな村だった。
〝山ではなく崖に囲まれた〟。
〝孤児院なんてなさそうな〟。
〝断片すら見た覚えの無い〟。
〝背の低い家の乱立する村〟。
「兄ちゃん、寒いことねぇか? どっか痛いとかねぇか?」
「いや……大丈夫。つーか騒ぎ過ぎだ。そこまで酷い怪我じゃない」
「若さって良いねぇ」
「良いだろ」
九対、一。
既に俺の中で、天秤はそこまで傾いた。この場所は、あの町じゃない。そして恐らく、あの島国でも無い。
狂ってると思われても良い。ただ今は、お袋の話を信じよう。この場が〝アテリア〟である事に、俺は九だ。
だから──確かめよう。
「……なぁオッサン。聞きてーんだが、ここ、アテリアのどの辺だ?」
「ああ。えーとね、フォリアから北西にずーっと行った辺りだ」
──……決、定。
「兄ちゃんはどっから来たんだい?」
「……今、オッサンが言ったとこから」
「おや、珍しいやね。アニルしか居ないと思ってたが、兄ちゃんフォリアの出身かい」
あぶね。アニルってアレか、見た目が獣の人間っていう。
ウソばっかしだが、見逃してくれオッサン。流石にまだ、アースから来たとは言えねーわ。
「……はッ」
アテリア、だった。
此処は──魔法の世界。
俺が〝暮らすべき場所〟だった。
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