7122人が本棚に入れています
本棚に追加
「……へぇ、そのままでも良いんだ?」
「構わねーッつってんだろ。こんぐらいの傷、いつだって放置してきた」
俺は荒く脱がされた学ランに手を伸ばす。カラーTシャツは千切れて死んだ。血塗れだったし別に良いがな。
「……アンタ、怪我ナメてんの?」
ガスッ、と。学ランに伸びる俺の手の甲を、立ち上がった貧乳が刀の鞘で押さえる。
刀なんてどっから出した? そう考えるより先に、奴は冷ややかな目で見下ろしながら口を開く。
「アンタが思ってる程軽い出血量じゃない。加えてナイフか何かで近距離に作られた斬り傷、来週には余裕で腐ってるわね」
「……あん?」
「確かに私は医者じゃないわ。でも悪いけど、アンタのちっぽけなプライドなんかより誇りはある」
「だからどうした。こんくらいじゃ死なねえだろうが」
「死なない? 関係無いわね、五体満足だからそんな事が言えるだけ。馬鹿にするのも大概にしなさい。それとも──」
甲を押される力が強くなる。
「〝和都の人間に治されるのは嫌かしら〟」
「はぁ? ワト? なんだそりゃ。関係ねえだろ、俺はお前が気にくわねーんだ」
「え……?」
「……あん?」
互いに疑問の声を漏らす。同時じゃない。俺は女が驚いた事に疑問を浮かべた。
先に表情を変えたのは、高圧的な雰囲気を崩したのは、あっちだ。
「んだよ。またなんか気に障ったか? 怒り易い奴だなテメェは」
「……」
じっ、と。睨んでいた眼が、観察するような眼に変わった。
染めた訳でもなさそうな、鮮やかな橙色のポニーテールが揺れる。
「……アンタ、出身は?」
「ほりあ」
「フォリア、ね。無様な程に滑舌悪い」
「テンメッ……!」
刀を外した女に向けて、立ち上がり詰め寄ろうとした矢先だった。
-Azure seal-
「……〝水の真心〟」
俺の身体が、青い光に包まれる。水の中に入ったような感覚と、何か優しい温かさに包まれた。
「い……っ?」
みるみる、だ。
本当に、見れる速さで。
中々に凄惨たる有様だった自分の肉体は、時を刻む程に治癒されていく。最早再生と言った方が近い。
最初のコメントを投稿しよう!