─黒ココロ─

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 ──くだらねえ。  そう思っていた。何もかもを。この世に起こり得る全ての事を。それが例え、輝くような心温まる物語であっても。  命の為に消えた父親。  女手一つで子供を育てる母親。  好きな事をやめてさえ働く姉。  全てを投げ出し荒れる自分。  他人の所為にはしねーよ──なんて、今だから言える事だがな。人の所為にした、運命の所為にした、あらゆる物に原因を被せた。  自分の家系の事も知っていた。母親が捨てられた理由だった。俺は自分に流れる血にさえ裏切られた。……ことにしていた。  くだらねえだろ。  何がかは知らねーけど。  まぁ、ドロップアウトした奴の数少ない指導だ。よろしくご鞭撻されとけ。  生きてりゃ。  全てが敵に見える時が来る。  仕事に盲目とか、恋に盲目とか、そんなレベルじゃねェよ。自分が好きな物が、人が。果てまで嫌いになる時が来る。  アイツにゃ悪い事をした。  アイツを救ってやれなかった。  自分の生徒に救われた。  口から言葉にはしない。これは俺の物語で、誰の所為でもない物語。  俺の生徒がぶち当たってる、揺れ動く自分の采配という問題の──ただの一つの解答例。  教師として、言っておく。  俺の選択は間違いだ。過程その他に囚われるな。間違いから始まった解答は、決して最良の答えにゃならねェ。  くだらねえ。  その五文字が導いた結果。  姉を見捨てた弟。  そして──  ……まぁ、ガラじゃねーんだが。  恋に盲目した俺の、失敗談だ。
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