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十六になった。
高校生になった。渚は大学生ではなかった。働いていた。
地域からの補助金があったところで、余裕なんて全く無い。俺もバイトを始めた。理由が何の為だったかは分からない。家族の為だと答えられる心が、その時にあったかどうかは自信が無い。
そしてある日。
母親が死んだ。
過労死だと、医者は簡単に母親の病気を教えてくれた。精神的な疲労が大きかったんじゃないかと、腹の立つ程に的確な見解を述べられた。
渚は泣いた。母親の母も泣いた。俺は泣いていなかった。
どこかしら、こんな運命を予想していた気がする。自分の母親は、問答無用に悪とされる血に呑まれて潰れるのではないかと。
泣かなかった代わりに、俺は怯えた。
自分がその道を辿り得る事に。そして何より、いつかこうして渚までもが……居なくなってしまう事に。
俺は弱い。
後に出会う、渚が育てた生徒より。
歪み切った俺は此処で間違えた。
渚を守る。その選択肢を見つけられずに。ただひたすらに、その結末を見る事から逃げていた。
孤児院を出た。アテは無い。ただ渚から離れたかった。この時俺は、恐らく渚が嫌いだった。
「私達なら、大丈夫だよ」
「きっといつか、なんとかなるから」
姉貴だから。違う、渚だから。アイツはあんな性格だから、自分よりも俺を気遣った。傷だらけの指を以て、高校生にもなった俺を撫でていた。
それが堪らなく気に入らなかった。理由は分からない。理性に従い、思い切り反発した。
人を殴る事に明け暮れた。制服姿で飛び出し、絡んでくる不良を沈め、無感情に金を奪う。少しだけ気が晴れた。
たまに負ける。大勢で仕留められた時、流石に死んだと思った。声がした。やめて、と。顔を上げると、渚だった。
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