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自分で自分が、強欲だと思う。何よりも失いたくなかった存在を、自分の一存で切り捨て、その存在を取り戻したいと願い、しかし会いたくないと思っている。
相反する願いばかりを反芻し、何かの命令を遂行するように足を動かす。
何もかもが嫌いだった。孤児院も、母親も、父親も、血も、運命も、人生も。
全てが嫌いだった。この空間に立つ自分さえ。消えて無くなりたいと思った。何一つ〝自分〟を残す事無く、この世界から。
気付けば俺は、林の中に居た。
山に囲まれたこの地区の、恐らくは山間に位置する平らな部分。背の高い木々の隙間から、夕焼けが突き刺さる。
カサ……と。茶色と緑が混じる葉を踏み鳴らす。季節は晩夏、去りゆく暦。
無作為に視線を巡らした俺は。
──……!
異常を目視し、驚愕した。
乱立する竹。視界を縦縞に走る緑のラインは、中心を切り取られていた。
不気味に、不自然に、不可思議に。
光が渦巻く、〝裂け目〟のような物が浮かんでいた。
異常過ぎる。人なんて俺しかいない。夕方に光はあれ程映えない。宙に浮いている。生きているように蠢いている。
驚愕した。──それは只の解釈だったかもしれない。何故なら俺は、それを見たところで、戸惑いを直ぐに消せたのだから。
俺は歩み寄る。光溢れる一筋へと。
主観だが、迎えられていると思った。絶望した俺を。諦めた俺を。何かが裁く為に。
死んでも良い。そう思っていたのかもしれない。これから先の未来が予想出来ない。渚の不幸だけが予想出来る。
逃げられるのか。
生を止めれば。
許されなくとも、この世界からは抜け出せるのか。
迷いは無かった。あと少し時間があれば、渚が嫌いなんて幻想が消えて、やり直すルートがあったかもしれないが。
俺は閃光に手を伸ばした。
――それが〝神隠し〟と呼ばれる、異世界干渉の天災だと、知る由もなく。
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