―特別―

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「……街中で凶器を出しても悲鳴が出ないあたり、異世界だよなあ」 「まあねー。見慣れちゃってるから。あとトビやん、あんまりそういうの他で喋らないようにするべしの巻」 「了解の巻」  少しノリが良くなった俺だった。  そんなことはどうでもいい。そう、俺は既に、ルーイに自分の事を話している。自分が庭園の国フォリアから来たわけではなく、勿論ルーイに呼び出されて魔界から馳せ参じたわけでもない。  遠い異世界。認識だけはされている異世界。アテリアではなくアースの人間であり、ただしレイスではなくメイジであることを、俺はこの一週間の宿生活で伝えていた。  いつかルーイが俺に言ったように、俺はもう一つの世界のことを話した。やはりというか、ルーイは「そんなこともあるのかもしれない」という予想を持っていたらしく、俺が話した時には少し驚きを見せるも、最終的には笑いながら「ヘンなのー」と言いやがった。  まあ、そんな程度のものなのかもな。これでもし、俺の身体がレイスなんて事態だったらとんでもなく面倒な事になっていたんだろうが、俺はメイジだ。ルーイと何も変わらない存在である。  居るべき場所に居るという、だけだ。  たったそれだけのことで、俺は受け入れられる。  お袋のように気負うこともなく、生きていける。 「トビやん、顔が怖い」 「元々だ」 「ウッソだー、寝てる時なんてあんなに可愛いのに」  どうやら俺はフザケンナという言葉を何度も使う宿命に囚われたらしい。もう一度俺がルーイの頭を鷲掴みにしようと手を構え、それに対してルーイは蜘蛛の子を散らしたように走っていく。  しかし。 「ふんぎゃッ」  おおよそ三歩目で、ヤツの逃走は失敗に終わった。  ただし、俺がルーイを捕獲したというわけではなく、ルーイが誰かにぶつかった。まあこれだけ人で溢れた道だ、急に振り返って走ればそんなことにもなるだろう。
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