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いやだって、オレはアイドルに関心がないだもん。
「君、テリーちゃんを知らないのか。今日だって、富士山テレビのお昼の生放送番組『笑ってグッドフレンド』の生ロケでここに来てくれたんだぞ。全く、君は信じられない変わりものだな」
哀れな生き物だといわんばかりに見られても困る。
オレも姉さんもお昼は、裏番組の『はりきってGО!』派なんだから。
「そんなことはないですよ。『笑ってグッドフレンド』もつい先週から火曜日レギュラーになったばかりですから。知らないのも無理ありませんわ」
署長の隣に座る少女は、オレに目を合わせるとニコリとほほ笑んだ。
小柄で、小さな顔に大きな瞳が印象的なかわいらしい少女。オレより少し年下といったところか。女性警官の制服に身を包み、髪を頭で束ねている。
そして、ただよう秘めた美しさ。
……、いやいや、オレは何を考えているんだ。
この世に姉さん以外に美しい者がいるはずがない!
「まぁ、君がテリーちゃんのことを知らないなら、さらに都合がいい。テリーちゃんのテレビの生放送は終わったんだが、彼女のたっての希望で署内の見学がしたいそうなんだ。案内と警備を兼ねてやってくれんか」
「わかりました。マネージャーさんも一緒ですか?」
アイドルなら、防犯上マネージャーも一緒に行動するはずだ。
「マネージャーは、他のアイドルの対応に行っていて今日はいないんです。スタッフさんも帰りましたから私一人です」
彼女が横から答える。
「おお、そうだったね。君の警備を私がやりたいところなんだが、緊急の会議が入ってしまったんだ」
署長が目頭をハンカチで拭う。
彼女はそんな警部を席に残し、自分は席から立ち上がり、オレの傍にやってきた。近くで見ると、彼女の背がそれほど高くないことが分かる。
「岸上英一朗さんっておっしゃるんですね。テリーらぶ伊藤(いとう)です。はじめまして、テリーって呼んでくださいね」
「では、彼女のことをよろしく頼むよ」
署長はそう言い残すと、オレと彼女を残して去っていった。
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