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「お隣、いいですか?」
テリーさんが署長の座っていた場所に席を移動する。
「あの、岸上さんは、おねえさまが被害に遭われた事件を解決した今も追いかけていらっしゃるって、本当なんですか?」
「解決なんて、していない!」
オレは食堂の机を思い切り叩きつけ立ち上がる。
「姉さんの記憶が、まだ戻っていないのに、解決なんて誰が言えるものか」
彼女は、オレを落ち着かせるかのように、オレの肩にそっと手を添えてきた。昔、姉さんが落ち着きのないオレにやってくれていたのと同じだ。
「まぁ、そうだったんですか。……そのあたりのお話を詳しく教えていただけませんか?」
彼女になら、オレのやるせない気持ちを分かってもらえるかもしれない。
「よし、聞いてくれますか。姉さんが巻き込まれた事件の話を」
姉さんは、この七色警察署でカウンセラーとして働いている。毎日朝から夕方まで働き、オレと一緒に住んでいるアパートへ帰ってくるのが姉さんの一日だ。
なのに、事件が起こったその日、姉さんは家に帰ってこなかった。帰宅途中に、何者かに階段から突き落とされ、そのまま病院に運ばれたからだ。
その日、交番勤務をしていたオレに連絡が入ったのは、姉さんが病院に運ばれた後だった。
一目散に病院へと駆けつけたオレに、医者は、姉さんがその日一日の記憶を全て失っていると告げた。
そう、姉さんの世界一清らかな一日の記憶が失われてしまったのだ。
姉さんは、「一日の記憶と交換で命が助かったと思えば、うれしいことよ」と言っていたけれども、オレはそんな風に考えられない。
「こんな重大な事件が事故として処理されてしまうなんて。オレは警察官として悲しい」
また、涙が溢れてきた。警察官として、恥ずべき姿をテリーさんの前にさらすなんて。
「本当に、日本の警察はひどいですね」
隣を見ると、彼女も目に涙を溜めていた。
「分かってくれて、うれしいです。テリーさん」
姉さんの為に泣いてくれるなんて、なんていい子なんだ。
「よし、私も捜査に協力するわ」
彼女が、コブシをポンと胸に当てた。
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