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「はっ!!!」
ガシャンッ!
日曜の昼下がり、あたしは瓦の20枚割りに成功した。
「桜、お前また強くなったのう」
お祖父ちゃんが言う。
あたしは割った瓦の枚数を見て、ため息をついた。
…あたし、これでも乙女なんだけど。どこまで強くなるのやら。
「桜っ!すげぇやっ!」
18歳の女子高生が空手の師範代の資格を持っていて、しかも教え子がいるなんて…
「桜」
「なに?」
教え子の小学生の一人、太助があたしの割った瓦達を見て目をキラキラさせている。そんな中、お祖父ちゃんは至極真剣な顔をしていた。
「そろそろわしも先がなくなって来た。お前にこの道場を継いでもらわなくてわな…」
毎回言われるお決まりの台詞。いつもちょっと寂しくなる。
「止めてよ、お祖父ちゃん。お祖父ちゃん居なくなったらあたし独りぼっちだよ」
「何を言っておる、教え子たちがおろうに」
「そりゃ、教え子たちも家族だけど、血の繋がった家族はお祖父ちゃんだけじゃない」
お祖父ちゃんは笑って遠くを見つめた。
「そうじゃな」
「でしょ?」
あたしも遠くを見つめた。
あたしの両親は交通事故で亡くなった。
旅行の帰りだった。
後部座席に座っていたあたしだけ奇跡的に助かったのだ。
今は二人一緒に天国へ行けたことを幸せだったんだ…と思えるけど、当時はあたしだけ取り残された気がしてならなかった。
お父さんは元々空手の師範でお祖父ちゃんと一緒にこの道場を守っていた。
今はお祖父ちゃんの後継者であったお父さんが居ない以上、あたしがこの道場を継がなければならない。
「桜!俺にも今の教えてくれっ!」
急に現実に戻されてため息をつく。
「自分で鍛練して出来るようになりなさい」
あたしは太助の頭をワシャワシャ撫でる。
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