出逢い

3/38
前へ
/95ページ
次へ
「ほら、今日はもうお仕舞い。あたし夕飯の支度しなきゃいけないから」 「いつもそれだよなー。頼むよ!…俺も師範みたいに強くなりてぇんだ!」 「媚びる時だけ『師範』とか呼ぶな!帰れっ帰れっ」 あたしはシッシッと犬を追い払う様に言った。 「なんだよ、バーカ!明日も来てやるからなっ!」 あたしは笑った。 「明日は休みだよーだ、おバカ」 「うるせぇ!ブスっ!」 太助は地面の砂をすくい取ると、あたしに思いっきり投げつけて、全速力で走り去って行った。 「ちょっとっ!」 「師範に砂を投げつけるとわ、かなりの度胸じゃな」 お祖父ちゃんは笑っている。 「ほんと、なんなのよあいつは」 あたしはいつも太助に構われる。 …もしやあいつ、あたしのこと好きだな。 「太助は桜のことが好きでしょうがないようじゃな」 お祖父ちゃんも同じことを考えていたみたい。 二人して笑った。 「さてさて、今日の夕飯は何かの?」 「今日はね、鰔の煮付けにしようと思って」 「おお、良いのう」 あたしはお祖父ちゃんの笑顔を見るとホッとする。 一人じゃないんだ…って安心出来るから。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加