出逢い

5/38
前へ
/95ページ
次へ
今日も蒸し暑い。 外に出ると、あたしはため息を着いた。 蝉がミンミン…と煩く叫ぶ。 あたしはいつも通り、公園の前で親友を待っていた。 …夢に見ていたのはこの公園にそっくりだったから、少し緊張する。 「おっはよ〓」 親友の佐由美。 いつもこの公園の前で待ち合わせて、一緒に学校へ行っている。 「おはよ、今日もバカみたいに暑いね」 「バカみたいって」 佐由美が笑う。 「だって暑すぎるよ」 今年も猛暑だ。 「だね〓…。『茹だる様な暑さ』って正にこんな感じだよね〓…」 「ね」 あたしはふっと公園の隅の方にある日だまりを見つめた。 夢の通り行動してしまう自分が少し怖かった。 胸騒ぎにも似た不安定な気持ち。それも夢の通りだ。 「桜…?行こうよ?」 その日だまりの中に何かが見えた。 …心臓の鼓動が蝉の鳴き声より煩い。 「うそ…」 …夢の通り、侍が倒れていた。 信じられなくて目を凝らすと間違えなく侍が倒れている。しかもその侍は夢の中と全く同じ格好をしている侍だった。 あたしは何故か助けなくちゃ…そう思う。これも夢の通りだ。 「ごめん、佐由美。先に行ってて。多分あたし遅刻すると思うから先生にもよろしく」 あたしはそういうと日だまりに向かって走り出した。 無我夢中で走り出した。 「ちょっとっ!桜!」 佐由美の声も蝉の鳴き声も何も聞こえなくなってた。助けなくちゃ…それしか考えられなくて。 「もう遅れるから本当に先に行くよ〓!」 「うん!」 佐由美からは木で隠れて見えないらしかった。 あたしにはしっかり見えてる。 吸い込まれそうに青い黒髪。紺色の着物に黒い袴を履いた侍。 息をするのも辛そうな侍の姿が。 …夢の中で見たままの侍の姿が。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加