出逢い

6/38
前へ
/95ページ
次へ
「…どうしよう」 近付くと着物の中から覗く胸に巻かれたさらしが断ち切られ、深い傷が覗いていた。 この先は目を覚ましてしまったから分からない。 チャキ… 「…おい」 侍があたしに気付いたらしく、刀を構えようとしている。 「近寄ると容赦はしない」 胸の傷から血が溢れている。 「…動かないで下さいっ。凄い傷ですから」 あたしはそれでも近寄って行った。 何故だかこの人には絶対に死んでほしくなくて。 「同じことを何度も言わせるな」 侍はゆっくり上半身をお越した。 「俺に構うな」 あまりの痛みに侍は歯を食い縛っている。 胸の傷からは大量に血が溢れ出し、赤い血がさらしを更に染め上げていた。 「死ぬのは怖くない」 侍はそう言うと、あたしを見つめた。 その目は死人の様に濁っていた。本当に死を恐れていない様な…そんな目。 何故か胸がギュッと締め付けられた。 あたしはゆっくり近付く。 侍はあたしを鬼の様な形相で見つめた。 「お主、本当に死にたいようだな…」 侍は刀を抜き、あたしに向かって構えた。 「くっ…」 …痛みで手が震えていた。 「あたし、何もしませんから」 あたしは更に近付いていく。 「あたしはただ、貴方を助けたいんです」 侍の前に膝まずいた。 「助けたいんです。貴方を」 侍は腕に力が入らない様で、刀を落とした。 あたしはその隙を見て侍を抱き締めた。 「なっ…」 侍がビクッと肩を震わせる。 「おいっ…馬鹿な真似はよせっ」 あたしの髪を引っ張り、引き離そうとしていた。 あたしはそれでも侍を抱き締めていた。 「お願い、死なないで…っ」 あたしは泣いていた。 髪がプチプチと抜ける音がする。その度に痛みが走る。それでも、彼を離したくなかった。 「お願い…っ」 お願い…っ 侍は髪から手を離した。 あたしは侍をギュッと抱き締める。 血の臭いに混じってなんだか懐かしい匂いがした。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加