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「…どうしよう」
近付くと着物の中から覗く胸に巻かれたさらしが断ち切られ、深い傷が覗いていた。
この先は目を覚ましてしまったから分からない。
チャキ…
「…おい」
侍があたしに気付いたらしく、刀を構えようとしている。
「近寄ると容赦はしない」
胸の傷から血が溢れている。
「…動かないで下さいっ。凄い傷ですから」
あたしはそれでも近寄って行った。
何故だかこの人には絶対に死んでほしくなくて。
「同じことを何度も言わせるな」
侍はゆっくり上半身をお越した。
「俺に構うな」
あまりの痛みに侍は歯を食い縛っている。
胸の傷からは大量に血が溢れ出し、赤い血がさらしを更に染め上げていた。
「死ぬのは怖くない」
侍はそう言うと、あたしを見つめた。
その目は死人の様に濁っていた。本当に死を恐れていない様な…そんな目。
何故か胸がギュッと締め付けられた。
あたしはゆっくり近付く。
侍はあたしを鬼の様な形相で見つめた。
「お主、本当に死にたいようだな…」
侍は刀を抜き、あたしに向かって構えた。
「くっ…」
…痛みで手が震えていた。
「あたし、何もしませんから」
あたしは更に近付いていく。
「あたしはただ、貴方を助けたいんです」
侍の前に膝まずいた。
「助けたいんです。貴方を」
侍は腕に力が入らない様で、刀を落とした。
あたしはその隙を見て侍を抱き締めた。
「なっ…」
侍がビクッと肩を震わせる。
「おいっ…馬鹿な真似はよせっ」
あたしの髪を引っ張り、引き離そうとしていた。
あたしはそれでも侍を抱き締めていた。
「お願い、死なないで…っ」
あたしは泣いていた。
髪がプチプチと抜ける音がする。その度に痛みが走る。それでも、彼を離したくなかった。
「お願い…っ」
お願い…っ
侍は髪から手を離した。
あたしは侍をギュッと抱き締める。
血の臭いに混じってなんだか懐かしい匂いがした。
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