出逢い

9/38
前へ
/95ページ
次へ
お祖父ちゃんに電話をして車で迎えに来てもらった。 あたしが焦っていることから何かを感じたのか、特に何も聞くことなくすんなり了承してくれた。 やっとのことで車に乗せて、着いたら直ぐにお祖父ちゃんの部屋に連れて行って、布団に寝かせた。 「これは酷い…。桜、田仲を呼ぼう。これはわしにも手に負えん傷だ」 「うん」 田仲さんはお祖父ちゃんの同級生で、お祖父ちゃんの専属医師だ。 「くっ…」 侍が目を開けた。と同時に刀に手を掛ける。 「おい」 お祖父ちゃんが侍の腕をポンと叩いた。 「なにもせんよ、剣客さん。取り合えず傷の手当てをしたい。よいかな?」 侍は溜め息を着くと。刀から手を離した。 「かたじけない…」 「気にするな」 あたしはそのやり取りを離れた所で見ながら、田仲さんに電話をしていた。 「お祖父ちゃん、直ぐに来てくれるって」 「よし、あとは田仲に任せよう」 お祖父ちゃんは至極冷静だった。 「剣客さん、もう少しの辛抱じゃ」 「………」 侍は静かにうなずいた。 冷や汗が全身を濡らしている。 「桜、正夢じゃったな」 お祖父ちゃんは静かに言った。今朝のような疑いの念は全くなかった。 あたしはうなずいて侍の汗を拭っていた。 田仲さんが来たのは30分後。 あたしたちに部屋から出るように言って、障子を閉めた。 お祖父ちゃんとあたしは居間で待っていることにした。 「桜、彼はどこに…?」 「神山公園の奥の方の木の下」 「神山…?」 「うん。佐由美といつも待ち合わせてるのが神山公園の前だから」 「神山公園は昔、神山という山があってな。そこで新撰組の土方歳三と維新志士である人斬り烏と呼ばれる剣客が一騎討ちをした場所だ。結果、人斬り烏が負傷した後、行方不明になった場所でもある」 「…維新志士って坂本龍馬とか?」 「そうじゃ。維新志士には影で任務を遂行する者がおった。その中でも本当に影の存在を貫き通した男が人斬り烏じゃ」 「へぇ〓…」 「歴史書にも載っとらん」 「なんでお祖父ちゃんは知ってるの?」 「わしの先代の友人が剣客でその先代が新撰組の一人だったらしい。わしが小さかった頃は新撰組の話ばかり聞かされたもんじゃ」 「そうなんだ…」 「新撰組の夜回りを脅かしていた若き剣客の話もな」 …強い人なんだ。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加