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「どうしますか?」
彼女は対面に座る俺にそんな言葉を口にした。
小日向さんの話す一言一言が凄く重い。
結局あのあと拘束を取ってくれていまは対面で向かい合って座っている。
彼女がいうには五時間あの状態にしたことにより意識的に小日向さんが上になっているという認識を与え、更に俺がくじけないのを確認して俺に自分の力を見せたことであれは目標を達成したらしい。
俺にそれを伝えたら意味ない気がするが、たしかになにか潜在意識が変わった気がする。
言われて見て初めてそう思ったけど。
ちなみに彼女のどうしますか?は帰ってもいいよ、という意味だが。
「あのさっきの件は…」
「私はお伝えした通りです。帰るならそれもよし、ただし拓真さんの両親には残念ですが。居るならそれはそれは歓迎いたしますよ」
平行線を辿る会話、糸口を探しているのだが全く好転しない。
夜中だというのに俺はすっかり目が覚めている。
「だったらどうして最初に俺を拾ってくれなかったんですか?そしたら俺はきっと小日向さんの為ならなんでもしてましたよ。俺はただ家族ができたらそれでよかったのに」
「土下座でもしましょうか?何度も言いますが、あの頃の私は少しばかり世界を知りませんでした。それを、人間に絶望しそうだった私はあなたに救われました。あの時の感動とあなたを追い返してしまった罪悪感が相殺できずに手に入れたくなった、それだけです。だから手に入らないなら拓真さんが最も深刻なダメージを追うことをしたくなる。当然ではないでしょうか?」
これ程ブレがなく厄介な人間は施設の先生と桃香以来だな。
彼女は特別表情を崩してないが、柔らかいままだが、そこまでいい放てるということは、それだけ自分に自信がある証拠だろう。
だから怖い。
俺なんかでは到底太刀打ちできないからだ。
いっそのこと両親を諦める、なんて選択肢が出てこない辺り、俺は救いようのない奴なんだろう。
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