3人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんだよ。言いにくいことなのか?」
問い詰めると、ミツキは珍しくたじろぐ様子を見せた。
「その……すまない!!」
突然ミツキはテーブルにひれ伏して謝った。
「な、なんだよ、急に」
「本当は、全校生徒無遅刻だなんて、建前にすぎない」
「……今更だな」
普通に考えて、俺以外に遅刻するヤツもいるだろうし、わざわざ朝食(※おにぎり限定)を作ってまで俺に取り入ろうとする意味もわからない。
「今この灯月町で発生している連続暴行事件……『未来伯爵』のことは知っているか?」
「……なんだそれは?」
「知らない、か。まあ、お前の交友関係の細さだと無理もない。
それにしても、地域密着型のテレビ番組ぐらい見たらどうだ?」
「……余計なお世話だ」
「かもしれないな。だが気をつけた方がいい。まるで吸血鬼のような格好らしい。
ヤツの反抗は無差別……殺害や窃盗は起こさず、暴力を振るうのみ。老若男女がその対象だ。
そして犯行は総じて夜に行われている」
「……それで?」
「犯人の身体的特徴がお前に一致していてな。少し調べさせて貰っていた」
「そうか……」
そういうことだったのか。
1人で舞い上がっていただけなのか、俺は。
「しかし、その心配はなさそうだ。
お前はただの善良な少年だよ。多少ひねくれてはいてもな。
迷惑をかけてすまなかった、もうお前の周りは彷徨かないよ」
そう言って、ミツキは去った。
「……ハハッ」
俺は壁を殴った。
ムカついたからだ。
舞い上がっていた俺に。
ミツキが消えた、この状況に。
そして、この俺……未来伯爵が貶されたことに、だ。
とっさに嘘をついた。
俺は未来伯爵として活動している。
だがそれは、決して無差別な暴行事件を起こしていわけではない。
俺が標的としているのは、決して善良な一般市民ではない。
誰かの未来を奪っても、羊の皮を着てのうのうと生きている輩だ。
正義感に溢れている彼女なら、理解してくれていると思ったのに……
俺はペンと紙を取り出して、書いた。
未来伯爵の真意を伝え、鬼灯零夜の思いを伝え、神宮寺満月を手に入れるために。
『今夜零時、貴女に会った月の綺麗な場所で。鬼灯零夜』
恋文とも果たし状とも成りうる、その手紙を。
最初のコメントを投稿しよう!