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本当に朝のように明るい。
ここ灯月町(あかつきちょう)は、その名の由来の通り、満月の夜に限って、かくも明るい。
それがなぜかは解明されていないが、やはり昔から人を狂わせるという月の光。
それが特に強い今日こそが、この俺の恋の一つの区切りを決めるに相応しい。
この俺、鬼灯零夜(ほおずきぜろや)と
かの女、神宮寺満月(しんぐうじみつき)の
その恋に。
そう、ミツキと初めて会ったのは前の満月だったから……なるほど、彼女は1ヶ月でこうも俺の中で大きくなってしまったのか。
告白に、月の力を借りようと思ってしまう程度には。
できることは、全てしておこうとする程度には。
少し寒いが、素肌に直接着たタキシードに、赤い裏地の黒マント、デブには着れない足長スーツに、先が尖った革靴。
後はこのシルクハットの中から蒼い薔薇の花束を取り出し、こう言うだけだ。
「未来伯爵はこの俺、鬼灯零夜のことだったのだ」
と。
そうだな、ミツキはここに立たせて、俺はここに立つと丁度いいだろう。
完璧だ
俺なら惚れる
絶対に
ぜろや
………
……
…
ああ、何がしたくて俺はこうも早く来てしまったのだ。
月が完全に昇るまで――ミツキが来るまで時間がある。
俺は彼女との出会いから今までを、思い出すことにした。
死刑囚の見る走馬灯のように。
それほどまでの、プレッシャーなのだから……
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