月の記憶

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「なんだよ。言いにくいことなのか?」 問い詰めると、ミツキは珍しくたじろぐ様子を見せた。 「その……すまない!!」 突然ミツキはテーブルにひれ伏して謝った。 「な、なんだよ、急に」 「本当は、全校生徒無遅刻だなんて、建前にすぎない」 「……今更だな」 普通に考えて、俺以外に遅刻するヤツもいるだろうし、わざわざ朝食(※おにぎり限定)を作ってまで俺に取り入ろうとする意味もわからない。 「今この灯月町で発生している連続暴行事件……『未来伯爵』のことは知っているか?」 「……なんだそれは?」 「知らない、か。まあ、お前の交友関係の細さだと無理もない。 それにしても、地域密着型のテレビ番組ぐらい見たらどうだ?」 「……余計なお世話だ」 「かもしれないな。だが気をつけた方がいい。まるで吸血鬼のような格好らしい。 ヤツの反抗は無差別……殺害や窃盗は起こさず、暴力を振るうのみ。老若男女がその対象だ。 そして犯行は総じて夜に行われている」 「……それで?」 「犯人の身体的特徴がお前に一致していてな。少し調べさせて貰っていた」 「そうか……」 そういうことだったのか。 1人で舞い上がっていただけなのか、俺は。 「しかし、その心配はなさそうだ。 お前はただの善良な少年だよ。多少ひねくれてはいてもな。 迷惑をかけてすまなかった、もうお前の周りは彷徨かないよ」 そう言って、ミツキは去った。 「……ハハッ」 俺は壁を殴った。 ムカついたからだ。 舞い上がっていた俺に。 ミツキが消えた、この状況に。 そして、この俺……未来伯爵が貶されたことに、だ。 とっさに嘘をついた。 俺は未来伯爵として活動している。 だがそれは、決して無差別な暴行事件を起こしていわけではない。 俺が標的としているのは、決して善良な一般市民ではない。 誰かの未来を奪っても、羊の皮を着てのうのうと生きている輩だ。 正義感に溢れている彼女なら、理解してくれていると思ったのに…… 俺はペンと紙を取り出して、書いた。 未来伯爵の真意を伝え、鬼灯零夜の思いを伝え、神宮寺満月を手に入れるために。 『今夜零時、貴女に会った月の綺麗な場所で。鬼灯零夜』 恋文とも果たし状とも成りうる、その手紙を。
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