悲しみ

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悲しみ

大橋美智子は、同じ電話番号を何度もコールし続けた。 五回目にして、ようやく電話が繋がった。相手は、夫の大橋巧だ。 『なんの用だ』 不機嫌そうな声が、美智子の耳に飛び込んだ。 何も知らない巧に、苛立ちを覚えた。 「なんの用だじゃないわよ、純平が死んだって、警察から電話がきたの」 多少怒鳴り散らすように、美智子は言った。 巧の返事はなかなか返ってこなかった。 『……悪い冗談はよせ』 ようやく返事をしたと思っても、信じてないようだった。と言っても、声には動揺の色が聞き取れた。 「冗談なんか言うわけないじゃない!!」 美智子は怒鳴った。 巧は再び返事をなかなか返さなかった。 「返事してよ」 美智子は言った。 『……どこの病院だ』 美智子は嫌な顔を作った後、うんざりした声で病院の場所を告げた。 電話は一方的に切られた。 美智子は携帯電話を畳むと、力強く机に押し付けた。 美智子はすでに、病院にいた。純平とも面識済みだ。 純平は安らかな顔で死んでいた。しかし、体は冷たく、生きていないとはすぐにわかった。 美智子は目を閉じた。すると、自然と浮かぶ純平との記憶。家族三人でピクニックに行った記憶、運動会の競争で、純平が一位になった記憶、走馬灯のように流れた記憶は、美智子の目を涙で潤した。押し寄せた焦燥感に、美智子は嗚咽を漏らし、跪いた。 「どうして私の子が」 美智子はそう呟いた。
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