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シュリンはなんとか中腰で踏みとどまった。
しかしリクラムが更なる一手を打つ。中腰状態のシュリンの重心を読むと、おもむろにシュリンの鎖骨の辺りに二本指をあてた。そしてゆっくりと押す。
「う、うわっ」
なんとか体勢を整えようと両腕をばたつかせたシュリンだったが、それは叶わない。シュリンは、ぺたんと床にしりもちをついてしまった。
呆然とするシュリンがリクラムを見上げた。リクラムは苦笑いを返すしかなかった。
視線が合って我に返ったシュリンが立ち上がろうとする。しかしリクラムはそれをさせない。
立ち上がろうとして重心が移動する瞬間を狙って、シュリンの肩を軽く押してやる。
再びしりもちをつくシュリン。
「…………」
沈黙が訪れた。
「……これはもう立ち上がらせてもらえないってことかな?」
シュリンがじとりとした目でリクラムを睨んだ。
「えっと、……うん。そうなるかな……」
リクラムはシュリンの視線から逃げつつ、歯切れの悪い返答をした。
シュリンはしばらくの間、リクラムを睨んでいたが、やがて大きなため息を吐くと降参の意を示すように両手を上げた。
「私の負けだね。……肉体強化無しならもう少し良い勝負できると思ったんだけどなぁ」
「これで良い勝負されたら僕の立つ瀬が無いよ」
リクラムは苦笑しながら、心底悔しそうにするシュリンに向かって手を差し出した。シュリンは素直にその手を取る。握った手は滑らかで華奢な女の子の手で、あんな身のこなしができるとはとてもじゃないが想像できなかった。
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