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鳴き声の余韻が虚空に混じり消え、部屋一帯が静寂に包まれる。
リクラムとシュリンは鳴き声の発生源を確かめた。見ると、だだっ広い無機質な空間に白銀色の猫がちょこんと鎮座いていた。ふとすると消えてしまいそうな希薄な存在感の猫だ。ただ、その双眸だけは圧倒的な精気に満ちていた。
――白銀に浮かぶのは二つの赤
リクラムとシュリンは一瞬、金縛りにあったように固まった。
刹那の後、先に金縛りを解き、動いたのはリクラムだった。白銀の猫に向かって猛然と駆け出す。それを見たシュリンも我に返り、臨戦態勢に入った。
(仞獣……なのか?)
猫までの距離を潰しながらリクラムは思った。赤い眼ではあるが濁ってはいない。むしろ宝石のような輝きを湛えている。刃も見えない。しかし先日の仞獣のように隠れている場合もある。いや、そもそもどこから入ってきたんだ。
さまざまな思考が一瞬にして脳裏に現れては消えていく。
(とにかく捕獲だ。危険と見なせば……容赦しない)
リクラムの射程圏に入った。しかし猫はぴくりとも動こうとしない。
二対の赤が交錯した。
リクラムは一瞬にして腰を落として両手を床に付くと、片足を伸ばし、その足で弧を描くように地面を薙いだ。
ここで初めて猫が動いた。猫らしい軽々とした動きで攻撃中のリクラムの肩に飛び乗ると、そのままリクラムの背後に飛び降りた。
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