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しかし突然人の姿となったフィーナに、リクラムは動揺していた。相手が切りかかってきているのだから応じるべきなのだろうが、どこか躊躇してしまう。
「いったん落ち着いて話を……!」
「何やってるの!! 集中して!!」
なおもフィーナに話しかけるリクラムをシュリンが叱咤する。
「彼女の言うとおりです。死にますよ?」
刀尖が髪を撫でた。宙に舞う自らの黒髪を視界の端に捉えながら、リクラムは肝を冷やした。気を抜けば、目の前の少女が確かな死を呼び込むであろうことを実感する。
「あーもう!」
迷いは消えない。リクラムはそれを振り払うかのように、あるいは忘れようとするかのように反撃に転じる。
鋭い突きを紙一重で空かし、フィーナの懐に飛び込む。
そして飛び込んだ勢いそのままに手刀をか細い首元に振るう。
しかし……。
逡巡があった。そしてフィーナはそれを見逃さない。
気が付くと腹部に鈍痛が走っていた。後ろに吹っ飛ばされ、何度も転がり、ようやく止まる。
「ほんとうに甘ちゃんですね」
前蹴りを放った直後の姿勢そのままにフィーナが言った。相変わらずの無表情だ。
「ごほっ……」
痛みと呼吸困難に顔をしかめ、蹴られた腹を抑えながらリクラムが立ち上がる。
(普通の筋力じゃない……。肉体強化か?)
魔力の見えないリクラムにそれを確かめる術は無い。シュリンに尋ねようかと思ったその時、
「肉体強化なんて使っていませんよ。私にそのような能力はありません」
リクラムの心を読んだかのようにフィーナ自身が答えた。
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