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脳まで回った魔力が世界を変える。
視覚と聴覚が取り残され、思考が先行する。引き伸ばされた時間の中でリクラムは自由自在に動くことができた。
互いに切り結ぶ金属音すらスローに聞こえる。
時折介入するシュリンの援護魔法を上手く利用しながら、段々とフィーナを追い詰めていく。
「ようやく、らしくなってきましたね」
どこか嬉しそうにも聞こえるフィーナの声音が一字一句はっきりと脳まで伝達された。
なにを言いたいのかは分からなかったが、今はそんなことどうでも良かった。体を駆け巡る熱に心地良ささえ感じながら、その脈動に身をゆだねる。
さらに加速。
シュリンの放った火球を両断し、隙のできたフィーナに刃を向ける。
美しい白銀の糸が宙を舞った。
「さすがにこれ以上はきついですね。……まずは一人、倒しておきましょうか」
淡い桜色の唇がゆっくりと紡いだ言葉を、リクラムはスローになった世界で見て、聞いた。
(シュリン……!)
突如身を翻し、シュリンに向かって駆けだしたフィーナをリクラムは追った。
リクラムの方がわずかに速い。
しかし並走するフィーナに放った斬撃はことごとく空を切り、彼女を止められない。動きは見えているのだが、体がそれに応えない。僅かにだが動きが鈍ってきているようだった。
シュリンも魔法を発動させようとしているようだが、おそらく間に合わないだろう。
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