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リクラムはフィーナを追い越してシュリンの前に躍り出た。
体を沈ませて切り上げの動作に入るフィーナを見据えて、数瞬後には閃断されるであろう空間に左掌を向ける。
腕一本を犠牲にする覚悟だった。後ろにシュリンを置いていることと得物の差から、そうするより仕方なかった。
恐怖はない。未だに全身を巡る魔力があらゆる負の感情を攫っていき、湧き上がる熱が高揚感を生んでいた。
「……リクラム!」
シュリンの声を遠くに感じながら、リクラムは左腕に更なる魔力を奔らせた。
黒刀が迫る。
来たるべき激痛を覚悟し、その上で右手に握るナイフを構えた。
――しかし、その瞬間が訪れることは無かった。
不意に、ぐいっと体を引っ張られたかと思うと、リクラムは体勢を崩した。同時に感じた優しい香りと、視界に捉える透き通るような金髪と碧眼は見間違えようもなく姉のものだった。
メノウは抱き寄せるようにしてリクラムの肩に片手を回し、もう片方の手をおもむろに迫る刃に向けている。
「姉さん!?」
その華奢な手に刃が届くのを目にしながら、リクラムは思わず声を上げた。血が飛び散り、姉の手が寸断される光景を思い浮かべ、全身を冷たいものが駆ける。
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