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「すごい……」
リクラムは思わず感嘆の声を漏らした。重量や刀身の長さはリクラムに誂えたようにしっくりとし、黒い刀身の、龍にも似た波紋が見せる鋭い光は一目で業物だと分かる。
その美しい刀に見惚れていると、不意に一つ大きな鼓動が脈打った。どくん、と更にもう一つ。
「これ……は?」
一度始まった鼓動は留まることがなかった。波のように次々と押し寄せる鼓動はリクラムの体に呼応し、その周期を速めていく。
体に熱が走った。刀から押し出されるように流れ込んでくる熱い奔流はリクラムの全身を奔り、勢いを増していく。五輝の仞獣と戦った時、そして先ほどフィーナと戦った時に感じた、魔力が全身を巡る感覚。しかし、今感じる力はそれらの比ではなかった。
これは、体が持たない――、と遠のきそうになる意識の中でリクラムは思った。
魔力によって活性化される感覚に体が追いつかない。遂には呼吸も苦しくなってくる。
「っは……ぁ……っ」
刀の発する鼓動だけが耳の中でうるさく響いていた。全身に冷や汗が溢れ、思わず膝をついたが、手にした刀の柄は吸い付いたまま離れない。
シュリンやメノウたちの声が遠くから聞こえてくる。
もうダメだ――と思ったとき、突然感覚が戻ってきた。冷や水をかけられたような感覚とともに、いつもの世界が戻ってきた。
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