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「シュリンさん、身を退くなら今のうちですよ。これから主様は否応なく激しい戦火の中に身を置くことになります。そういう運命なんです。あなたが付き合う必要はないんですよ?」
相変わらず、事実を伝えるだけの口調をフィーナは崩さない。しかし心配してくれているのだと、シュリンはすぐに分かった。
自然と頬が緩むのを感じた。利用できるものは黙って利用しておけば良いのに、フィーナはそれをしなかった。リクラムのように表立った優しさはなかなか見せないが、フィーナも優しい子なのだ。そう思うと、目の前の少女をもっと近しいものに感じられた。
それに迷う必要などなく、返事は決まっている。フィーナの言う激しい戦火などシュリンには想像もできない。それでも、なんとかなるだろうという根拠のない自信が湧き上がっていた。もう独りじゃないのだから、なんでもできるような気がするのだ。
「ありがとう、フィーナ。でも大丈夫だよ。私も貴方たちと一緒に戦う」
シュリンがそう言って微笑みかけると、フィーナは驚いたように目を見開いてシュリンを見つめ返した。
「フィーナ?」
フィーナの珍しい挙動にシュリンも驚いた。
そしてフィーナはすぐに表情を戻すと、ゆっくりと口を開く。
「全然迷わないのですね……。主様は、シュリンさんがこう言うことをわかっていたのでしょうか」
「リクラム、何か言ってたの?」
「昨日、主様にも同じ話をしました。私は、主様はシュリンさんを遠ざけるのではないかと思っていました。主様は優しくて甘いですから」
「あー、それは難なく想像できるね」
優しすぎる彼は、誰かに危険が及ぶと分かればすべてを一人で背負込もうとするだろう。
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