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出所
勝之の兄、信春がいよいよ来週刑務所から帰って来る。
春菜は信春に対してこの3年間憤りとも後悔とも覚束ぬ想いを抱いていた。
春菜の目から見て信春は良い兄だった。
元来、強迫神経症を患い、勤めに出てもすぐに辞めてしまう勝之に何時も就職の斡旋をしてくれていた。
引き篭りの勝之と春菜がなんとか別れずに済んできたのはこの信春の力が大きい。
そんな信春が実は密かに心を病んでいた。
きっと兄としてのプライドが邪魔をしたのだろう。
信春は医者に罹る事を嫌い覚せい剤いに手を出した。
信春の苦悩に気付いてやれなかったこと…
自分たちにその病を打ち明けてくれなかった事の対する憤懣・・・
春菜はこの3年間、いつもそのことに胸を痛めていた。
しかし信春が逮捕され、暫くして勝之に変化が現れた。
勝之はそれまで決してやらなかった就職活動を自らの意思だけで始めたのである。
信春の居ない3年間、勝之の闘いは続いた。
精神疾患を抱え仕事を探すのは並大抵の事ではない。
そして勝之は、実に3年の時間をかけて、漸く続けられる定職に就くことに成功した。
兄を実家に迎え入れ、自分はずっと待たせていた春菜と世帯を持つ。
来週、いよいよ勝之のその悲願が実りを迎えようとしている。
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