6人が本棚に入れています
本棚に追加
……この本を読むのは何度めだろうか。
「もう軽く百回は読んでる。」
ずっと読んでいた本には「魔法<初級編>」と書いており、その文字をするりと撫でて本を閉じてハァ、と少年はため息をついた。
固まった身体を伸ばし、ほぐす。体育座りをして読んでいたからか仕切りに腰を撫で虚ろな目で閉じた本に目線を落とす。
「何回読んでもダメ。…やっぱり僕には出来ない…」
少年、レオン・アーリアスは自分を呪って生きている。虚ろな目は何も写さず、全てを拒絶しているように濁っていた。
「あぁ…なんで?どうして?…どうして僕には出来ないの…!?みんな出来るのに!」
頭を抱え、小さな身体を震わせ自分を呪う。
ぽろぽろと濁った目から流れでる涙は止まる事を知らない。
「…な、んでっ…!なんで、僕には魔法が使えないの…!なんでッ!なんで僕はアーリアスなんだよぉお!!」
魔法が使えない、それはこの魔法世界グリシュードでは痛手であろう。
だが、この少年レオン・アーリアスは不幸が重なり辛く苦しい生活を送っている。
何故なら、
「アーリアスなんて嫌いだ…なんで、僕なんかが…アーリアスの名なんて要らないのに…!!」
アーリアス。その名を聞いただけで大抵の者なら知っていると答えるだろう。
アーリアスはこの世界に昔起きた戦争を止めた英雄、デイビット・フィスターの右腕として活躍したシグ・アーリアスの名だからだ。
名門貴族、アーリアス一族は高い魔力と知能をもったものが多く、世界に名を轟かせている貴族の一つなのでその貴族の一人でも゛落ちこぼれ゛が居るのならそれはそのアーリアス家にとって汚点でしかない。
だからこそ、この少年の背にのし掛かるプレッシャーは計り知れない。
「…………やっぱり、僕は……」
死んだほうがいいのかな
少年は頭に浮かんだ言葉をぎゅっと噛み殺しキツく目を瞑る。現実から目を背けるように。
いつか、誰が助けてくれる事を祈る。
その少年の願いは叶えられる。思ってもみない形で。
そして物語は始まる。
最初のコメントを投稿しよう!