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「離れろ」
もう一度俺の頭を叩いて、伊織は溜め息混じりに命令してきた。
「怒ってない?」
伊織を見上げて訊いてみれば、伊織は苦笑いを浮かべて頷いた。
「本当?」
「しつこいと、本当に怒るぞ?」
ぱっと離れた俺に、伊織は何かを投げ付けてきた。
ぱしりと受け止めた俺の手の中の物は、
「キャッシュカード?」
銀行のキャッシュカードだった。
しかも、俺名義の。
「おばさんから朝預かったんだよ、お前に渡してくれってな」
「?」
なんで、俺名義のキャッシュカードなんてあるの?
俺、銀行口座なんてないよ?
伊織のお母さん、作ったのかな?
「おばさんが持ってたそうだ」
伊織は母さんから聞いた話しを、淡々と語ってくれた。
この口座は父さんがまだ生きていた頃に、和美のと一緒に父さんが作ったものだそうだ。
父さんが亡くなった後も、母さんがちゃんと管理してくれていたらしい。
ちょこちょこ入金してくれていたそうで、それなりにお金が入っているとの事。
「取り敢えず、必要な時に下ろして使え、と」
母さん……ありがとう。
本当に俺の事、ちゃんと考えてくれていたんだね?
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