猫の私とご主人の友達

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『で。目の前にある文字と頭にある手は何なのかしら?』 私達は目的地に着いたのだが、そこには見たくないものが大きく書かれた看板があった。 「動物病院」と書かれた看板が。 「えぇと、動物病院やな。んで、この手はお前がこの看板を見て逃げ出さへんようにするためのもんや」 (カバンに私を入れたのもそれが理由なのね) 動物病院。 知ってはいるが中に入ったことは当然ない。 レーナから聞いたが私達動物を治療する施設らしい。 しかし、 治療法によってはかなり痛いらしい。 (友達と会うのは建前で本当は私に痛い治療をするのが目的だったのね) そう思い必死になって逃げようとするのだが、出来るはずもなくご主人は中へと入っていった。 裏口から。 (あら?) 私が首を傾げているとご主人が声をかけた。 「治療されるとでも思たんか? ハハ、今日はホンマに友達に会いに来ただけや。安心しぃや」 『ん‥‥‥』 言われた通りなので私はふてくされたような顔をしておいた。 「さてと、こっからはお前は絶対にしゃべったらあかんで」 ご主人は扉の前にたつと私に忠告した。 『言われなくても分かってるわよ』 「そないでっか。 ほな行きますか」 ご主人が言うと呼び鈴を鳴らした。今はインターフォンと呼んでいるんだったか。 {はい。あっ、お前か。鍵開いてるから適当に入っといて} ガチャ 通話がきれる音が聞こえるとご主人は扉を開けた。 「相変わらず適当な奴やな」 『……』 ご主人が言うな、と言いそうになったのを喉までで留めた。 目の前に人がいたからだ。 厳密には女の人が目を輝かせながら私達、否私を見ていた。 「よっ、久しぶり。もう来とったんか」 「(キラキラ…)」 ご主人が左手をあげながら挨拶をしたが、彼女には聞こえていないようだ。 「おいおい、無視かいな……」 ご主人が残念そうに呟くと彼女の後ろから男が現れた。 「こいつの猫好きは異常だからな。さっさと見してあげれば?」 声から察するに呼び鈴に出たのはこの男だろう。 「せやな」 ご主人が一言言うと彼女は更に目を輝かせた。 「なんでそっちは聞こえとんねん‥‥」 ご主人の呟きは儚く消えていった。
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