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今彼女がしていることはいわば現実逃避だ。
現実の今の自分から目を背けている。
まだご主人と戯れている男に相談するならいい。
私よりも長い時間一緒にいたのだから。
だのに、
今彼女は「猫」に相談している。
本来なら言葉を発しない「猫」にだ。
きついと言われるだろ。
しかし、
私は元々ウジウジする事している事が大嫌いだ。
昨日の自分を思い出すだけで虫酸が走る。
彼女はとうとう話さなくなり、私の肉球すら離していた。
少し向こうでご主人達二人は楽しそうに笑っている。
あの中に彼女をいれてあげたらどうなるだろう。
こんな暗い雰囲気にはならなかっただろうか。
私は何も言わず彼女の前に座っていた。
すると、
彼女は無理やり笑顔を作った。
「困った時こそ笑顔だよね…」
私には何かを愛おしむような顔に見えた。
「実は私ね、3年前まで猫を飼ってたの」
(次は何を言い出すのかしら…
「猫」に)
「白猫だったんだけど家の事情で飼えなくなっちゃって、捨てちゃったの。ホント後悔してる」
白猫と聞きレーナを不意に思い出してしまった私は気分が悪くなった。
「凄く私に懐いてて可愛くて。両親が離婚なんかしなければ、ずっと一緒にいられたのに‥‥」
(どうでもいい話ね)
私はついに興味をなくしその場で寝転んだ。
「実はその子。人の言葉が喋れるの」
(!!!)
私はピクッと耳を立てた。
私以外にも人の言葉を話せる猫がいたなんて思いもしなかった。
もしそれが本当ならば、本気で私を頼ろうとしていたのだろうか。
私は体勢は変えず、しかし興味津々といった様子で彼女の次の言葉を待った。
「あの時声がしたからもしかしてと思ったんだけど。あなたもしかして人の言葉が喋れるんじゃないの?」
(!!!)
衝撃が私の中を走った。
(まさか、バレていたなんて)
私は沈黙か真実を告げるか悩んだが、今話したらややこしいことになると思い沈黙を選んだ。
「……そうだよね。そんなことないよね」
その場しのぎは出来たらしい。
(猫のことは一応ご主人に言っておこうかしら)
私は本当はビクビクしながらも、冷静を装い時間が経つのを待った。
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