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オープン戦前日、寮に戻った剛紀は自主トレを終えて、自室で風呂をすませくつろいでいた。
<――そして、ヤクルトの先発は新人投手、小島浩介。>
テレビをつけていると、ふと耳に入った聞き慣れた名前に、剛紀は反応した。
「小島……!」
そう、親友でありライバルである小島が、テレビに映っていたのだ。
それは、今日行われたオープン戦に関するニュースだった。
剛紀は食い入るようにテレビに釘付けになった。
<――対して、小島はMAX148キロの速球と切れ味鋭いスライダーで、初回から三者凡退に抑えます。>
「……すげー」
無意識のうちに、そう言葉を漏らしていた剛紀。
このキャンプの間、自分のことで精一杯であったため、小島……ましてや同期連中のことなど一切考えていなかった。
そのため剛紀には、目の前で活躍する小島が妙に輝いてみえ、嬉しい反面、先を越された気持ちもあった。
<――しかし三回、突如小島が崩れます。先頭打者に四球、それから八番亀田に安打を許し――……>
「あー……」
目の前で躍動していた小島の顔は、みるみるうちに汗だくになっていく。
<――トドメは四番、矢部!6点目のスリーランを許し、三回途中で降板した小島。苦い初登板となりました。>
「…………」
剛紀は、同情はしなかった。
これがプロなんだと改めて認識した。
自分も、明日の試合でどうなるかは分からない。
だから、ひたすら精進し続けること。
立ち止まることは許されない。
自分がプロであることを改めて自覚した剛紀は、まだ乾ききっていない頭のまま、バットを持って部屋を出た。
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