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注目ルーキーの登場に、レフトスタンドからは歓声が沸き起こった。
それとほぼ同時に、三塁側ベンチから小走りで飛び出す小島。
その姿を久しく目の当たりにし、剛紀は体の中で静かに燃えたぎるものを感じていた。
好敵手の登場に、剛紀は武者震いを起こしていた。
そんな剛紀の肩に手を置き、若辺は淡々とボヤキを発した。
「右バッターにタイミングを合わされてきたし、球数も100越えてりゃ、まぁここは右投手だよなぁ」
若辺は棒読みのような喋り方で、剛紀に話しかける。
「だが、ここでルーキー……ましてや小島を出してくるなんて、あっちも役者だねぇ」
剛紀は若辺の言葉を聞きながら、投球練習を始めた小島から目を離さなかった。
それを見た若辺はニヤリと笑みを浮かべた。
「……樫琶、お前たしか甲子園で小島を滅多打ちにしてたな?」
「はい」
じゃあ苦手意識はないな、と若辺は発破をかけて剛紀の背中を叩いた。
「しっかり振ってこい!」
「はい!」
気合いを入れた剛紀は、小島を前にして不思議とリラックスしていた。
そして小島の投球練習が終わり、ウグイス嬢が剛紀の名を呼び、剛紀が打席へ向かうと、この日一番の歓声が場内から沸き起こった。
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