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「ファウルボール!」
高く上がった打球は、そのままバックネットを越えた。
剛紀は、打席を外して2回素振りをした。
「(捉えたと思ったら、伸びてきた……ストレートの質が半年前とは段違いだ!)」
打席に戻りながら、剛紀は胸中で小島の成長に驚き、喜んでいた。
自らの興奮冷めやまぬまま、小島は投球動作を始め、すぐに第二球が放たれた。
外角に逃げるスライダーに、剛紀のバットは空を切る。
テンポの良い小島の投球に、簡単に追い込まれてしまった。
三球目はストレートがインコース高めに抜けて、カウントは1-2。
投手有利のカウントで小島が選択した球は、スライダーだった。
一方、剛紀は、もう甘い球はないだろうと一層集中力を高めた。
自然とスタンドからの剛紀コールが大きくなる。
勝負の行方がどうなるかわかる者は一人もおらず、球場全体が二人の新人に釘付けになった。
そんな大歓声の中、投じられた第四球目だった。
<カァァン!!>
小島が投じた外角中心のスライダーを、剛紀のバットが完璧に捉えた。
轟音とともに、白球が進路を急転させる。
打球は、物凄い弾道で空を裂きながら距離を伸ばしていく。
球場全体が上を見上げて、歓声と悲鳴が入り混じる。
マウンドとバッターボックスの二人の男だけは、ただ打球の行方を目で追っていた。
打球は、そのまま勢い衰えずに、バックスクリーン横に突き刺さった。
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