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――ある日の試合後。
「樫琶ー」
ベンチの荷物を片付けて引き上げようとしていたところを、中山に呼ばれる剛紀。
「はい!」
返事をして近寄る剛紀に、中山は口角を上げながら話しかけた。
「今日が無安打だったからって、そんな落ち込むなよ」
「はい……」
肩を落としながら答える剛紀。
今日の楽天戦、剛紀は4打数0安打と、いいところなしであった。
開幕直前にしての大失態に、悔やんでも悔やみきれない気持ちだった。
そんな剛紀を慰めながら、中山は用件を伝えた。
「監督が呼んでた。監督室に行ってこい」
用件を聞いた瞬間、剛紀の心臓が一度、ドキッと高鳴る。
「(まさか……二軍落ち?)」
今日の成績から、そんなことを考えてしまう。
「おいおい、本当にわかりやすいヤツだなぁ」
不安そうな剛紀を見て、中山はケラケラと笑った。
「けど、お前みたいなヤツは嫌いじゃないよ」
そう付け加えて、剛紀の尻を軽く叩く中山。
「はぁ……」
スッキリしない気分の剛紀は、そのまま去っていく中山に礼を言って、急いで荷物をまとめた。
「(話って、なんだろう…。きっと良い話じゃないな……)」
「(いや、物事をマイナスに考えてはダメだ)」
頭の中で葛藤を繰り返しながら、剛紀は監督室に向かっていた。
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