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しかし、若辺は放心する剛紀を見て笑い出した。
「そんなにショックか!本当に欲張りなルーキーだな!」
剛紀は、謝りながらも悔しさを堪えていた。
若辺は、ニッと笑う。
「けどな、そんなお前の執着心と可能性に、俺は賭けたくなったんだよ」
「え?」
そう言って立ち上がる若辺を剛紀は見上げる。
「樫琶、喜べ!開幕戦は、お前を五番ファーストで使うぞ!」
キョトンとする剛紀。
そして、頭で若辺の言葉を理解したとき、剛紀の頬は自然と緩んだ。
「え、俺、二軍じゃ……?」
「コーチたちの前で、俺が頭を下げて懇願したんだ。なかなか認めてもらえなかったんだぜ?」
苦笑いを浮かべながら、そう振り返る若辺。
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、結果出せよ!」
そう言って親指を立てる若辺を余所に、剛紀は喜びを噛みしめていた。
「お前なら一軍でやれる。実力で勝ち取ったんだ。責任は俺が負うから、お前は精一杯やれ。いいな」
「……!はいっ!ありがとうございます!」
剛紀は、若辺の優しさに心の底から感謝した。
「……まったく、お前を見ていると、なんだか昔の原を見ているような気分だよ」
喜ぶ剛紀に聞こえない声で呟く。
剛紀の尊敬する原は、若辺の後輩であった。
そのため若辺の目には、剛紀と、若かりし頃の原という、世代を越えた黄金ルーキーがタブって見えたのだった。
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