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その日も、報道陣に囲まれての練習を終えた剛紀。
寮でグッタリと体を横にしていたときだった。
<ピリリリ!ピリリリ!>
夜中の10時過ぎだったが、剛紀の携帯が鳴った。
携帯を手に取り画面を見ると、着信の相手は剛紀の母だった。
「(お袋……)」
実家には既に開幕一軍の報告をしていた剛紀は、何の用なのか疑問を抱きながら、電話に出た。
「もしもし、お袋?」
するとすぐに、電話を通して剛紀母の元気な声が聞こえる。
「もしもし、剛紀?」
いや、この時は元気だけではなく怒気も伝わってきたのだった。
剛紀母は続ける。
「あんた、最近よくテレビで見るけど、自惚れてんじゃないの?」
藪から棒にそう言われるも、剛紀には何も思い当たる節がなかった。
癒やしを求めていた剛紀は、苛立ち反論するも、次の母の言葉に沈黙させられる。
「今日のスポーツニュース見たわよ!あんた、リポーターさんの質問に適当に返したり、無愛想に振る舞って、失礼でしょ!」
違うのだ、心身とも疲労がピークに達していたため、それどころではなかったのだ。
というのは、言い訳に過ぎないことを悟った剛紀は、口を閉じた。
それから、しばらく母の説教を聞いていた。
すると、あるとき思い出したように、剛紀母はこう言った。
「そうだ、浩くんは二軍に落ちちゃったんでしょ?」
浩くんとは、剛紀母が小島(浩介)のことを呼ぶときの略称である。
「この前、小島さんにバッタリ会ってね。浩くんの話になったのよ」
今まで母に叱られ、気を落としていた剛紀は、小島の話になった途端、母の話に集中した。
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