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少年の名前は 樫琶 剛紀(カシワ タケノリ) 剛紀が野球に魅せられたのは、小学三年生の秋。 当時、首位争いで異常な盛り上がりを見せていた、[巨人―阪神]の好カード。 満員の東京ドームに、父親と試合観戦に来た剛紀は、当初は野球に興味がなかったものの、バックネット裏からみる大迫力の攻防や、両スタンドからの熱い応援に、無意識のうちに胸を踊らせていた。 そして、剛紀を野球界に引き込んだきっかけを作った、ある選手がいた。 読売巨人軍四番打者 原 清(ハラ キヨシ) 想像も出来ないような重圧を背負いながら、バッターボックスで威風堂々と構えるその男の背中に、剛紀の目は釘付けになっていた。 そして、試合終盤になり、1―1で迎えた八回裏。 バッターボックスには、原。 2アウト、ランナー1塁。 それまで好投を続けていた伊川が投じた第一球だった。 カァン! 一瞬、爆発音の様な乾いた音が響き、場内が静まり返る。 原の振り抜いたバットの先から放たれた白球は、物凄いスピードでグングンと飛距離を伸ばし―― ドスンッ! という音と共に、レフトスタンドの看板に突き刺さった。 と同時に沸き起こる大歓声に東京ドームは揺れた。 マウンド上で、がっくりと膝をつく伊川。 戦意喪失の阪神ナイン。 そんな中、大歓声を背に受けて、口元を緩ませ右手を大きく突き上げ、ゆっくりとダイヤモンドをまわる原。 剛紀は、終始鳥肌を立てながら、その光景を目に焼き付けていた。 それと同時に、剛紀の心の中に、ある夢が芽生える。 俺もいつか、あの人のようなホームランを打ってみたい! 野球人、樫琶 剛紀の誕生である
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