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<――後攻の埼玉西武ウルフズ、スターティングメンバーを発表します。>
ウグイス嬢のアナウンスが球場に木霊する。
待ってましたと言わんばかりに、満員のスタンドからは万雷の拍手とメガホンを叩く音が巻き起こり、球場が熱くなる。
そして、ウグイス嬢が一人ずつ西武のスタメンを紹介し、それに合わせてライトスタンドからは各選手の応援歌が沸き起こる。
選手たちは、その応援を背に受けて守備につき、スタンドに一礼する。
一連の流れの中には、もちろん剛紀がいる。
<――……四番、サード、岡村>
剛紀の前の打順である四番を打つ岡村の名が呼ばれる。
ついに、剛紀が呼ばれる番になり、スタンドは昨年の本塁打・打点王への歓声もそこそこに、ざわつきだした。
そして歴史的瞬間を前に、球場は静まり返る。
同時に、ウグイス嬢の澄んだ声が流れ出す。
<五番――。>
剛紀は、帽子をかぶり直し、気合いを入れた。
<――五番、ファースト、樫琶>
ウグイス嬢が剛紀の名を告げた、その瞬間、この日最大の歓声が球場を襲った。
その異様とも言える雰囲気に、圧されそうになる剛紀だったが
「暴れてこい!」
若辺に尻を叩かれ、ハッと我に戻り、グラウンドに出て行った。
ファンの期待は、歓声とともに剛紀を貫く。
プロならではの空気を、身体中でヒシヒシと感じながら、剛紀は守備につく。
ライトスタンドに一礼すると、さらに湧く観客たち。
「(ついに、この日が来たんだ…)」
感慨もひとしおに、剛紀は自分の胸に手を当てて、集中力を高めた。
「よし…!」
ボール回し、そして開幕投手である涌口の投球練習が終わり、対戦相手である楽天の一番打者が打席に入る。
そして、記念すべき剛紀の開幕戦の開始を告げるアンパイアの声が響いた。
「プレイボール!」
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