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<――二回の裏、ウルフズの攻撃は、五番、ファースト、樫琶。背番号50>
ウグイス嬢の澄んだ声が樫琶の名を告げた途端、西武ドームが地響きを立てた。
球場内の六割の西武ファンの割れんばかりの歓声が大地を揺らす。
その視線の先には、「神童」と呼ばれ、大活躍が期待される背番号50がいる。
ファンの声援を背に受けて、剛紀は右バッターボックスに入る。
ライトスタンドからは大音量の剛紀コールが絶えず聞こえる。
「…………」
この時の剛紀には、そのうるさいぐらいの声援は全く耳に入っていなかった。
ただ、剛紀の全神経はマウンドの中田だけに集中していた。
それほどまでの、緊張感が剛紀の余裕を奪っていた。
しかし、がむしゃらなルーキーにとって、それは諸刃の剣かもしれない。
とにかく、剛紀の集中する姿は、威圧感さえ漂わせた。
バットを二回、三回と揺らし、そのまま肩に担ぎ、鋭い眼で中田を睨む。
対する中田は、静かに、それでいて雄々しく、捕手からのサインを見つめていた。
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