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中田は一度深く息を吸い、吐き出した。
捕手からのサインに頷き、投球体勢につく。
対して剛紀は、プロの舞台、初打席でも大ヤマを張っていた。
「(中田さんは球界のエースと言える存在……新人の俺でも、手は抜かないだろう……)」
剛紀は、ふぅっと一度、息を吐いた。
「(全部ストレート待ちでフルスイングする!)」
ルーキーならではの、失敗を恐れぬ豪快な判断。
しかし、それが大真面目であるから投手も油断できない。
振りかぶった中田の目と、剛紀の目が合った。
咄嗟に剛紀の胸中を悟った中田は、より一層集中力を増した。
少しの間が空き、ワインドアップから投じた一球目。
外角いっぱいの直球。
並の打者ならば、ヒットエンドランでもない限り手を出さないコースだ。
しかし、剛紀は違った。
【ボッ!】
凄まじいスイングは空を切り、ボールは捕手のピクリとも動かないミットの中に収まった。
途端にどよめく球場。
新旧黄金ルーキー対決、どちらに軍配が上がるか――。
返球を貰った中田は、真っ向から挑むルーキーに負けじと、力のこもったストレートを投げることを自身に誓った。
続く二球目。
捕手からのサインに一度、二度、首を振り、頷く中田は、一球目と同様に外角に直球を投げ込む。
もちろん、剛紀もフルスイングで迎える。
【チッ!】
「ストーライッ!」
中田の直球に、剛紀のバットが掠り、ファウルチップとなったが、ボールは捕手のミットの中。
0-2……先に追い込まれたのは、剛紀。
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