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「アウト!」
剛紀から始まった二回裏の西武の攻撃は、エンジン全開状態の中田を前に三者連続三振を喫し、呆気なく攻撃を終えた。
マウンド上の中田は小さくガッツポーズを見せながら、悠々とベンチに戻る。
そのピッチングを称えながら、嶋谷が中田に近寄った。
「ナイスピッチ!」
中田は、たぎる闘士もそのままに嶋谷のハイタッチに応えた。
そして、嶋谷は剛紀の打席を振り返った。
「全球直球で抑えるなんて、ちょっと樫琶をナメすぎたかな」
全球直球勝負について、そう言う嶋谷だったが、中田はすぐにそれを否定した。
「ナメてないです」
そして、こう続けた。
「俺に真っ向から挑んでこようってなら、どちらが勝つか直球で勝負したいじゃないですか」
そんな無責任な話があるか!
と嶋谷は言いかけてやめた。
絶対的なエースは、常に尋常ではない責任を背負ってマウンドに立っているのだから。
「まぁ、つまるところ、負けるつもりもナメてるつもりもありませんでしたよ」
パッと振り返って口角を上げる中田に、嶋谷はやはり頼もしさを感じた。
「だから樫琶への最後の球、直球ど真ん中を迷いもなく投げ込んだんだな」
嶋谷がそう言うと中田は、勿論と頷いた。
「最後は流石にムキになって放りました」
そう、剛紀が空振り三振を喫した最後の直球。
コースはなんと、ど真ん中。
「開幕戦だってのに、あの球はシーズン中でもそんなにお目にかかれないわな」
中田の投じたその直球は、自己最速となる156㎞を計測していたのだ。
「まぁ、次の打席が楽しみだな」
「雪辱は喰らいませんよ」
中田の返答を聞いて、嶋谷はバッターボックスに向かった。
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