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剛紀の第三打席の初球。
中田の剛腕がしなり、空を切る。
音を立てながらホームベースに伸びていく白球は、低めギリギリに決まりそうだ。
「(直球……!)」
迷わず剛紀はバットを降り出した。
バットとボールが衝突する――。
その直前、剛紀の視界からボールが消えた。
ボールはベース上でワンバウンドしてから捕手に届いた。
「(スプリット…!)」
正式にはSFF(スプリットフィンガーファスト)と呼ばれる、フォークより落差が小さい分、ストレートのように速い変化球だ。
マウンドの中田は、鬼気迫る表情で樫琶を睨む。
おそらく、甘い球はおろか失投すら投げてはくれないだろう。
150キロ中盤の豪速球、キレ味鋭いスライダー、落差のあるフォーク、小さい変化のSFF、タイミングを狂わすカーブ。
今のところ、剛紀が認識する中田の持ち球はこの五種類。
その全てが一級品な上、制球力も高い。
分かりきった分析をしながら、剛紀はあることを考えた。
「(ストレートを待とう……多少ボール球でも、手を出す!)」
一打席中に、ストレートが投じられる確率は高い。
剛紀は、それを狙い撃ちする決心をした。
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