開幕

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続く第二球。 中田の流麗な一連の投球動作のピリオド直前に、白球が放たれる。 コースは外角低め一杯に、スーッと伸びていく。 糸を引くように、そしてそのまま針の穴を通すように。 ――ストレート。 一球目のSFFは、二球目への布石だったのだと、剛紀は確信した。 打者は初球のSFFが頭を過ぎり、コーナーギリギリの直球に対して、思い切りスイングは出来ない。 仮にボール球なら見せ球として、三球目を活かせることが出来る。 そういう算段なのだろう、と。 だから剛紀は迷わず打ちにでた。 「(一二塁間を……抜いてくれ!)」 そう思いを込めて、バットを降り出した。 しかし、剛紀の読みは見事に外れてしまった。 「ストラックツー!」 剛紀は捉えたと確信していたが、その手に一切の感触は無かった。 打球音の代わりに、体勢を崩した剛紀の耳に聞こえたのは、審判のコールだった。 「スプリット……!」 してやったり顔の嶋谷が、中田に「ナイスボール!」と声をかけて返球する。 それを受け取った中田は、剛紀を一瞥してからロジンバックに手をやった。 「くそ……」 剛紀は、悔しさで奥歯をギリリと鳴らす。 まさか二球続けてSFFとは考えていなかった剛紀は、まんまと踊らされてしまった。 0ボール2ストライク もう後がなくなって、剛紀の頭はフル回転する。 三球勝負か? 球種は? 直球待ちでいいのか? 否、一球遊ぶか? その球を打ちに行くか? 釣り球が来るか? 「バッター、ハリー!」 考えがまとまらないうちに、主審から打席に入るように催促される。 「は、はい」 とにかく、何が何でも食らいつこう。 そう考え、あわてて打席に入った時だった。 「タイム」 一塁側の自軍ベンチからタイムをかける声が聞こえ、プレイが中断された。 声の主は、中山だった。 ちょいちょい、と手招きをする中山の元へ、剛紀は駆け足で戻った。
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